私たちの身体の中では呼吸をしたり、運動などにより「活性酸素」が常に発生しています。そして、暮らしをとりまく紫外線や大気汚染、あるいは日々のストレスなどから、活性酸素の発生が過剰になると、体内は酸化ストレスという状態におかれ、心身の健康を脅かします。
でも、その酸化ストレス状態を改善してくれる抗酸化物質の代表であるポリフェノールの力を借りれば、さまざまな健康効果が期待できることもわかっています。
いま注目を浴びている「エラグ酸」は、そんな抗酸化作用を持つポリフェノールのひとつ。
「エラグ酸」がどんな食品に含まれ、体内でどのように作用し、何を私たちにもたらしてくれるのか、エラグ酸について詳しく見ていきましょう。
エラグ酸は、脂肪の分解を促進したり、食欲を抑制するなどの生理作用を助けてくれる栄養成分です。そして、その正体はポリフェノールの一種です。
さて、このポリフェノール、よく聞く名称ですが、ここでもう一度おさらいをしておきましょう。
ポリフェノールとは、植物の葉や茎、樹皮、果皮などに含まれる渋み、苦みや色素などの成分で、自然界には8,000種類以上あるともいわれている物質です。これは植物が光合成することによって産生され、植物は産生されたポリフェノールによって細胞を生成し、活性化します。
エラグ酸以外のポリフェノールの種類で馴染みのあるものをいくつかあげると、赤ワインに含まれるアントシアニン、緑茶に含まれるカテキン、蕎麦に含まれるルチン、大豆に含まれるイソフラボンやサポニン、ゴマの成分が変化してできるセサミノール、ウコンやターメリックのクルクミンなどなど。どれもきっと、どこかで聞いたことのある名称ではないでしょうか?
そして、これらポリフェノールが持つ力で最も特徴的なものが「抗酸化作用」です。
しかも、エラグ酸は、このポリフェノールのなかでも特に強い抗酸化力を持つといわれています。エラグ酸というポリフェノールは、強い抗酸化作用を持つ強力な抗酸化物質なのです。
アントシアニン 赤ワイン、ブルーベリーやブドウに含まれる青紫の色素成分
カテキン 緑茶に含まれる渋み成分
大豆イソフラボン 大豆の胚芽に含まれ、女性ホルモンと似た作用がある
大豆サポニン 大豆に含まれるエグ味、苦み成分
クルクミン ウコンやターメリックに含まれる黄色やオレンジ色の色素成分
ケルセチン 玉ねぎやりんごなどに含まれる黄色い色素成分
では、抗酸化物質、抗酸化作用とは何か、という基本に戻りましょう。
端的にいうと、抗酸化物質、抗酸化作用とは、活性酸素の発生やその働きである「酸化」を抑制したり、活性酸素そのものを取り除く作用と物質のことをいいます。
日頃からバランスのとれた食事や適度な運動習慣を心がけ、十分な睡眠をとっていれば、抗酸化についてさほど気にする必要もないですが、日々のストレスなど活性酸素が生まれる条件が、私たちの日常にはたくさん揃っています。
そこでここではもう少し、活性酸素とその周辺で起こる生体反応の説明をしましょう。
●活性酸素とは
活性酸素は酸素が活性化されたもので、過剰に産生されるとさまざまな不調を引き起こす要因となります。
私たち人間はもちろん、生物は皆、大気中に含まれる酸素を利用して生命活動を維持していますが、酸素は、紫外線や大気汚染、ストレスなど外部からのさまざまな刺激を受け、反応性の高い活性酸素に変化することがわかっています。
たとえば、過度の運動や呼吸でさえも、酸素を変化させる要素となりえます。私たちが呼吸によって取り込んだ酸素は、その一部の数%が通常よりも活性化され、活性酸素に変わるのです。
活性酸素は、微量であれば細胞伝達物質や免疫機能として働いてくれます。しかし、体内の代謝過程でさまざまな成分と反応したり、過剰に産生されると、細胞を傷つけ、過酸化脂質をつくり出すなど、体に悪影響を引き起こす原因のひとつとなるのです。
●抗酸化力とは
生体内で常に発生してしまう活性酸素ですが、不思議なことに私たちの身体はその害に負けることなく、体内の恒常性を維持することができます。
それはなぜでしょうか?
答えは、人体に活性酸素から自己を防衛する抗酸化防御機構、つまり、抗酸化力が備わっているためです。
この機能は、活性酸素の産生抑制、生じたダメージの修復や再生を促す機能要素です。名称でいうと、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)、グルタチオンペルオキシダーゼやカタラーゼなどがあり、これらは自ら体内で作り出すことのできる内因性の抗酸化酵素です。これらのおかげで、身体は活性酸素の害から守られているというわけです。
●抗酸化力は年齢とともに衰える
これら内因性の抗酸化酵素とともに、私たちはふだんの食事からビタミンCやビタミンE、カロテノイド類、カテキン類など、外因性の抗酸化酵素も取り入れています。
こうした内因性、外因性の抗酸化酵素が共に複雑に作用しながら、体内の抗酸化防御機構が機能しているわけですが、残念なことに、内因性の抗酸化酵素の産生は、年齢とともに衰え、減少していくという現実もあります。
つまり、活性酸素の害に打ち勝つためには、外因性の抗酸化物質、つまりポリフェノールを積極的に取り込まなくてはいけないということがいえるのです。
だからエラグ酸の、ポリフェノール類のなかでも特に強い抗酸化力を持つ機能性関与成分に注目が集まっている、というわけです。
では、実際にエラグ酸を多く含む食品にはどんなものがあるのか、みていきましょう。
エラグ酸は、イチゴ、ラズベリー、クランベリー、ブドウ、ブラックベリー、くるみ、ざくろ、ヤマモモ、パイナップルなどに多く含まれています。
これらの植物はエラグ酸を生体内で生成し、エラジタンニンというタンニンの形に変換します。そしてこのエラジタンニンは、植物を摂取したときに容易に加水分解され、エラグ酸を再生成するという特徴があります。
実はエラグ酸、さまざまな植物を通じて古くから日常的に摂取されており、食経験上、安全性に問題はないとされる食品に属します。
最近では「アフリカマンゴノキ」という、西アフリカやインドに自生する高木に生るマンゴーに似た実の種子エキスに含まれるエラグ酸が注目され、健康に寄与するエキスとして現在も多くの研究が行われています。
また、エラグ酸はポリフェノールなので加熱損失も少ないため、生食に限らずジャムやジュースにしても効率よく摂取することができます。ただし、持続性は摂取して3-4時間くらい。その後は排出されてしまうので、継続的な摂取がおすすめです。
近年の研究では、抗メタボに関する多様で優れた機能で注目されている「エラグ酸」ですが、抗酸化作用をもつポリフェノールでもあることから、抗メタボ対策だけにとどまらず、広く健康面全般に関して大いに期待のできる物質だということもいえます。
ポリフェノールは、抗酸化作用で活性酸素を撃退しますが、抗酸化作用としてまず思い浮かぶのが、抗老化や抗加齢です。
エラグ酸が長寿遺伝子といわれるサーチュイン遺伝子を活性化させるという最近の研究結果からも、その強い抗酸化力が頷けます。
このエラグ酸は、身近なフルーツであるイチゴやラズベリー、ザクロ、そしてクルミなどに多く含まれているので、これらの食材を朝食のシリアルに加えたり、デザートとして楽しんだりしてみてもよいでしょう。
また、サプリメントなどからエラグ酸を取り入れるのもよいかもしれません。
エラグ酸は継続的な摂取がおすすめですので、ご自身の生活スタイルに合った形で無理なく取り入れられるのがよいですね。
管理栄養士。国際中医薬膳師・国際中医師・調理師
多数のメディアでダイエットレシピの提案や栄養専門調理実習講師、栄養関連の監修を行う。著書『太らない食べ方 新装版』『どっちが太らない』/毎日燃えメシ (エイ出版)他。
管理栄養士 清水加奈子